少しでも偏差値の高い学校へ進学させたい。我が子が中学や高校の受験をする際に、そう考える親は多いです。「偏差値の高い学校ほど教育のレベルが高く、そこへ集まってくる優秀な子たちから影響を受けて我が子の学力も高まり、進学に有利になる」と考えるからと思われます。しかし、データは真逆の結果を示しているそうです。

「本来の実力よりも少し下のレベルの学校に入ったほうが、将来の進学、さらには社会に出てからの収入でも有利に働くという“エビデンス”がある」と教育経済学のエキスパートで近著『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』(ダイヤモンド社)が話題の慶應義塾大学総合政策学部の中室牧子教授は言っています。

「第一志望校で最下位」と「第二志望校で1位」のその後
例として、都市部の中学受験の例をとってみます。「都会での中学受験は7割が第1志望に受からない」といわれています。多くの受験生が、模試の判定で合格が難しいとわかったうえで、高いレベルの学校を受験することが慣例化しているからです。なぜ「合格困難な中学」をわざわざ選ぶのでしょうか。 難関校の合格実績を稼ぎたい受験塾は、子供に対し、実力よりも上の学校にチャレンジさせようとします。我が子を有名校に進学させて見栄を張りたいという親の気持ちも背景にあります。1でも2でも偏差値の高い学校に合格することを是とする風潮を感じとることができます。 しかし、できるだけ偏差値の高い中学に進学することは、将来の大学受験、さらには社会に出てからの収入まで考えたときに、賢い選択と言えるのでしょうか。 それに対応する設問が、中室牧子・慶應大総合政策学部教授の近著『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』に載っています。 〈次のような状況を想像してみてください。受験の直前に、模試で90点を取れる実力を持つAさんとBさんがいたとします。この2人の志望校は同じだったのですが、入試の結果、Aさんは第1志望校にギリギリで合格し、Bさんはギリギリで不合格となりました。Bさんは第1志望校よりは少し偏差値の低い第2志望校に合格し、進学しました。 先にも述べたように、AさんとBさんの実力はほとんど同じですが、Aさんは進学した学校での成績順位が最下位となり、Bさんは1位になりました。このあと、成績や進学で有利になるのはAさんとBさんのどちらでしょうか〉 入試の時点で、第1志望に合格できたAさんは歓喜して、不合格になったBさんは落胆したはずである。しかし、その後はどう展開するのか。同書ではこう続けられています。 〈多くの人は、「少しでも偏差値の高い第1志望の学校に通っているAさんのほうが、周囲の優れた友人から良い影響を受けて、入学後の成績や進学で有利になるだろう」と考えるのではないでしょうか。だからこそ、私たちは、わが子に「少しでも偏差値の高い学校に合格してほしい」と願うのでしょう。 順位についての研究の結果は一貫しています。私たちの予想に反し、のちに有利になるのは、第1志望校で最下位のAさんではなく、 第2志望校で1位のBさんです。「鶏口となるも牛後となるなかれ」とはよく言ったものです。
※鶏口牛後(けいこうぎゅうご)大きな集団の末端にいるよりも、小さな集団のトップになる方が良いという四字熟語。
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